「ハンセン病問題の現状と課題」知ること、伝えたいこと(伊波敏男)
2022年2月26日に、6月に開催される「ハンセン病市民学会全国交流集会in長野」開催に向けた第2回セミナーが開催され、クリオン虹の基金理事長の伊波敏男が開会のあいさつをしましたので、内容を掲載します。
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皆様こんにちは。
ウクライナ国民の「大切な命が奪われている」同じ時、『「ハンセン病問題の現状と課題」知ること、伝えたいこと』をテーマに、私たちのセミナーが開催されようとしています。
「らい予防法」廃止から26年、「違憲国賠償訴訟」の勝利から21年となりました。
さて、今日、国民の意識の中に「ハンセン病問題」は、どのような形で記憶されているのでしょうか、
世界中で新型コロナウイルスの大流行に直面し、わが国でも、国会で「検疫法」「感染症法」「新型インフルエンザ特別措置法」を、より罰則強化を法制化するかで論議が起こり、マスコミなどで、過去の過ちの事例として「ハンセン病問題」が、取り上げられましたが、その後は、すっかり影を消してしまいました。
学校における歴史教育は、歴史タイトルの年代暗記や、原始、古代、縄文にはじまり、近代、現代史までたどり着かないうちに字間切れとなり、歴史の事例を、生徒自身が議論し、歴史認識を深める授業カリキュラムにはなっておらず、ましてや、人権問題を児童生徒に論議させ、人として生きる道を自ら習得
することには、それほど重きを置いているとは、思えません。
アジア・太平洋戦争についても、沖縄戦の惨劇や東京大空襲の戦禍、広島、長崎の原爆被害や、わが国の戦死者は、教科書で触れていますが、アジア・太平洋の人々への加害の事実は、ほとんど教えられることはありません。
わが国には、さまざまな人権課題があります。
男女差別、セクシャルハラスメント、性犯罪被害、いじめ、体罰、児童虐待、児童買春、高齢者・障がい者被害、同和問題、HIV感染者、ハンセン病者、貧困問題、また、韓国、朝鮮籍44万人を含む、約280人万余の在留外国人問題、インターネットによる人権被害、ホームレスなど、思いつくだけでものこれほどあります。
本日の主要テーマは、「ハンセン病問題」を、知ること、伝えたいことです。
ハンセン病問題は、私の認識では、三層の「当事者」が存在しています。
第一層は、89年の長い間、間違った医療・社会政策を作り出した加害者の国家、その執行者であった地方自治体であり、第二層が、被害者のハンセン病患者と、その家族や縁者。そして、国家政策の情報から、目隠しと、耳をふさがれ、「病み、隔離され、人権を奪われた人たち」に、自らも、知ることを怠り、その存在に「無関心」のまま、不作為だった多数の国民です。
本来なら、ハンセン病の烙印を押され、人権や人生を奪われた当事者自らが、体験した事実を語り、二度と、この国で同じ過ちを繰り返させないために、語り継ぎ、知らせて行く役割を担って行くべきでしょう。
しかしながら、ハンセン病療養所入所者の平均年齢は87歳となり、自らの言葉で、わが国の人権問題の負の歴史教科書とも言われる「ハンセン問題」の証言者の役割を果たすには、困難な状況となりました。
この「ハンセン病市民学会」に、多くの方々が参集され、その、おひとり、お一人が、学び、知ることで、これから、それぞれ住んでおられる所で、新たな「語り部」として、必ずや、その役割を果たしてくれるものと、私は大きな夢を思い描いております。
「ハンセン病問題」は、どんなに時が経とうとも、「ハンセン病市民学会」から巣立った、新たな「語り部」たちによって、風化することなく、未来への扉を、開いてくれるものと、私は確信しております。
『「ハンセン病問題の現状と課題」知ること、伝えたいこと』の、このセミナーで、「ハンセン病問題」の認識が深められることを期待し、開会のご挨拶に代えさせていただきます。